「宝塔」第351号
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人の一生は人と人の出会い

 人の長い一生には色々な人との出会いがある。勤め先でいつも灰皿を掃除してくれていた娘さん、この娘さんにひかれて一生を託する人生の伴侶として結婚、そのまま五十年の金婚式をむかえた夫婦もあれば、一遍の通りすがりの出会いでその人の事を思い出す人もあります。 私の大阪、京橋駅での出会いもそうです。私の前を松葉杖をついて危なそうに上って行く一人の娘さんがいました。すぐ後について私も階段を上って行きますと、途中で、その方がこけそうになったものですから後ろから支えてあげましたら、娘さんが振り返ってにっこりとした顔をして「有り難うございます。大丈夫です」と言われ、そのまま肩を並べる様にしてホームまで来ました。まだ電車が来ていませんでしたのでホームのベンチに腰をおろしました。「怪我でもされたんですか」と尋ねますと、
 「いいえ、長い間、間接リュウマチで寝たり起きたりの生活から、だんだん悪くなって、二年間ほど身動きも出来なくなり、二階の一室で暮らしていました。その内に、痛みが少しづつ取れて、部屋の中で歩く練習をし始めました。窓の下が公園でしたので、子供たちの賑やかな声を聞き、歩ける人はいいなあ、私も歩ける様になったら一人で公園を歩いてみたいとの思いで一杯でした。少し歩ける様になりますと、窓の所まで行き、公園を散歩している人、遊びに夢中になっている子供がどんなにか羨ましく思い、やきもちをやきました。自分の体がもうこれで一生歩く事も出来ないかと、絶望して、自殺を考えた事もありましたが、今こうして自分の力で杖にすがってでも少しづつ歩ける様になったのです。今は外に出て歩いて見る事がどんなにか楽しい事かと思っています」
 との話でした。
 そうこう話していますと、電車がホームに入って来ましたので一緒に乗り、窓の外を見ながら外はいいですねと言われた。その一言が私の心にジーンと来ました。「一日も早く杖が無くて歩ける様に成られる事を祈っています」と言いましたら、「ありがとうございます、おじさんも元気でね」と反対に言われたのです。私は電車を降りまして娘さんの方を見ますと、小さく手を振っていましたので、私も大きく手を振って、「元気になって下さい」と大きな声を出しました。勿論、電車の中まで聞こえるはずがありません。窓ガラスの中から涙が光って見えました。ホームを歩きながら何か大きなものを忘れている事に気がつきました。自分の足で歩いて行ける事がこんなにも楽しく有り難いことがです。
 時々、この娘さんの姿を思い起こしては歩ける事、健康で生かされている事を感謝しております。
 今、この世の中にこうした事に気付かず、毎日を子供の事、主人の事等、色々の問題の中で喜びを失い、感謝の出来ない生活をしている人が、何と多いことかと思いますと、情けなく思います。
 私は、この一辺の通りすがりに出会った事を、いつも心の中にしっかりと、留めておきたいと思います。ほんのちょっとした出会いも大切なものである事を知らされました。
 或る御夫婦と三十年近いお付き合いをしていましたがこの家のご主人は気が短く、すぐ怒る人で、奥さんに口うるさく、常に喧嘩が絶えた事がありません。主人にビール瓶で頭を殴られたりして、奥さんはよく家を出たり又自殺未遂をしたり、別れ話もありました。それでも子供さんが二人ありますので、別れることなく四十年近く暮らしてみえます。昔の人の言葉で言えば腐れ縁とでも言うのでしょうか、今では何とか落ち着いて暮らしてみえます。このような生き方をしている人との出会いもあるのです。親と子、夫と妻、親しき友人、兄弟となるものすべてこれが生きていく為の出会いと言えます。
 或る奥さんと出会いました。この奥さんは顔色が悪く何か大きな悩みを持っておられる様でしたので、それとなくお話を聞きますと、五年前に今の家に後妻に来られたそうです。三人の子供さんがあり、その世話と主人の店の手伝いをして暮らしておりましたが、上の男の子が中学二年の時から様子がおかしくなり、学校を休んではパチンコ屋へ行く様なので、子供を叱りますと、学校なんか行く気がない、それよりも小遣いをくれと言います。渡さないと、店の売上のお金を持ち出す様になり、ほとほと困っておりますとの話でした。その方に、子供さんを陰で拝むことですとお話を致しました。
 「毎日拝むのです。それが何年も続く事もあります。貴方がそうした家に後妻としてくる事は、前世からの因縁ですから、そうした苦しみを受けて、悪い因縁が切れるのですからね。頑張って下さい」
 こんなお話をさせて頂きましてから、この奥さんの顔に少しづつ明るさが出てきました。酷い時には金を出せと言って、この方の腕を締め上げたりするそうです。そうしますと下の二人の子供さんが、「お母さんをいじめないで」と泣いて小さな体で兄さんに向かって行くそうです。二人の子供さんは素直な子ですのでこの子達の為にと、涙を流して頑張っています、と話されました。
 この様な生活をしている間に六年の月日が経ちまして、パチンコ好きな兄が、パチンコ店で働いていた娘さんと知り合い、家に連れて来て、この人と僕は結婚をしようと思うと言い出したので、何を言っても自分の思う通りにする子ですから、「それはいいですよ、只、結婚をして生活するにはお金がいりますから、自分で働かないと困りますよ」と言いましたら、黙って行きました。それから三ヵ月程して、又、娘さんを連れて来て、「どうしても結婚する、僕もパチンコ店で働くことにしたよ、この娘もその気でいるから」と話しました。私は何も言いませんでした。その時、この娘さんが、「お母さん、お願いします」と言ったのです。娘さんの顔を見ながら、「お父さんお母さんにお話をしましたか」と聞きますと、九州の生まれで、両親に早く死に別れて、叔父さんの家で生活をしていましたが、あまり良く扱われなかったので家を出て来たとの事。「その様な事がありましてもその叔父さん達に、一言お話をして来なさい。それで許して頂けたら私たちは反対しませんから」と言いますと、「分かりました、九州へ行ってきます」と話が出来たのです。この娘さんは大変しっかりした方で、長男も張り切って働く様になりました。何か不思議な気がして、あの娘さんが、観音様の様に見えたのです。たまたま家に来て食事をしながら、「何時ごろ結婚するの」と聞きますと二年ほど一生懸命に働いてからと思っていますと、ハキハキした言葉で答えてくれました。「私は両親に早く死別しましたので、家庭の味を知りません。だからお母さんと呼ばせて下さい」と言ってくれました。本当に優しい娘さんです。食事が終わってから、この娘さんが息子に、「こんな良いお母さんを苛めては罰が当たりますよ。もっとお母さんを大切にしてあげなさい」と小さな声で言っているのを聞きまして、長い間苦労をしたかいがあったと一人で泣きました。私の前世の悪い因縁が切れたと思い今では喜んで暮らしています。下の二人の子供も小さい時から優しい子でしたから今は何も言うことはありません。只、今でも毎日陰で拝んで暮らしていますとの事。人の真心は必ず天に通じるものと、この方は感謝の心で暮らしてみえます。
 人の出会いとは不思議なものです。二年程して、息子さんとこの娘さんは結婚をして、親と一緒に暮らしておられますが、このお嫁さんは、家庭的な楽しい暮らしをした事がないから、毎日明るく、お母さん、これどうしたらよいのですか、この味付けはこれでよいですかと、お母さんお母さんと、毎日優しくしてくれますので、家族が六人、楽しく明るく暮らしています。出来の悪い息子に、優しい嫁が来て楽しく暮らせるのも人と人との出会いと言う事です。そして此のお母さんは苦しい時に、愚痴もこぼさず、毎日陰で息子さんを拝んでいたお陰だと感謝が出来るのです。人の一生には色々な出会い、良いときも悪いときもありますが、それを乗り越えてこそ人生の幸せがあるのです
 
                            合 掌

 

宝塔第351号(平成21年4月1日発行)